宇宙の果てまで


 元国立天文台長であり、かつてNHKでスポーツキャスターをしていた小平桂子アネットの父でもある天文学者の著者がライフワークとして建築に注力したハワイの「すばる天文台」の完成までの20年におよぶさまざまな苦難を、研究テーマである「遠方の銀河」についての一般人向け解説を交えた紹介と、時系列にそった世間のさまざまな事件や出来事を交えながら平易に語った話。どれくらい平易かというと、文中から注意深く「光年」という用語さえ省かれているほどだ。
 政財官各界とのさまざまな折衝*1が、文中に直接は語られきらなかった政治や金の生臭さの気配だけ感じさせる程度にオブラートに包まれて語られていてそれだけでかなり読ませる。おそらく度重なる政治家や官僚との折衝の過程で「なにがどうなっているのか」の平易な説明を何度も繰り返して語ってこざるをえなかったことが文章の洗練につながっているのだろう。


「宇宙の果てまで見通せる天文台を作りたい」という考えが結実して行く過程と平行して語られて行くそのときどきの世界の情勢のうつろいが、見上げられる宇宙とあまりに対比ありすぎてなんだかシニカルな笑いを呼び起こさせかけて、だけど真顔になってしまう。宇宙は広いし、世間は狭くて、だけど狭いからといって半年先が見通せるわけじゃなし。

*1:事実上日本ではじめての「外交関連以外の外国領土における政府所有施設」だということで申請窓口に関係法改正から手当、関税からはじまる雑多きわまりない事柄がやまほど出てきたそうだ