その目

 後悔なんてしない、と言い切った言葉よりもその時の目のほうが記憶から離れない。太陽系の外れの静かなメタンの氷のようだ。遥かに遠く、静かで、誰も聞くこともなく。

 遠ざかり、近づいて、でも遠く、遠く眺めることくらいはできる。

 たとえば視線などに物理的な力があればどうだろう。見ることで打ち倒し、聞くことで相手を塵に変え、触れることで黄金に変える。そういえばそういう古い話もあったっけ。してみるとこれはたいして真新しい望みでもないらしい(望み?そう、願いのようなものなのかもしれない、あるいは)。

 ところで願い事には願って良いことと悪いことがあるらしい。ミダス王だって、その酬いを受けたんじゃなかったっけ?

 星に手を伸ばすということは古くからされてきたことだ。それは悪いことではない。けれど伸ばした指先は、冷たいメタンの氷に触れて凍てついてしまうのだ。空は遠く深く、飲み込めないものなどないほど空ろで、そうだなあ、どうせなら凍りつくのならどこまでも凍りつけばいいのに。

 視線には力はないけれど温度だけがある。