猶予

 ほんの少し天使に背中を押してもらえばできることがある。たいていそういうことは、しないで終わる。雲の上に住んでいるだけあって天使は無力なのですね。

 選んでいたら、なにほどか幸福もしくは不幸になっていて、つまり今とは違う今を生きていたりすることができた、かもしれないわけだ。可能性ともいうね。可能性はワタアメみたいに甘く、うつろで、見ために美しく。

 知らないふり気付かないふりをして逃げる、という手もある。見えていても見なければ済む。目を閉じろ。耳が閉ざせるなら閉ざせ。逃げていてどうなるのだろう。でも逃げないと。
 檻のない砂漠に天使を撃ち落とし、羽根は無惨に飛び散って、そのあまりの綺麗さに涙が止まらない。夢のような悪夢。知ってるかい?天使にも尻尾が生えているんだよ。それでも足は止まらない。そういうものです。違う?そうかもね。そうなんだろうさ。



 でも人間に選べるのは右足を出すか左足を出すかの選択だけで、右足だけ出しつづけるわけにはいかないし、進む道を急に変えることなんて、できないのです。まったく、なんのハナシだろうね。