言わずにいること
言わずにいることなどは案外多くて、でもだからといってそれが胸につかえることはそれほど多くはない。ちょっとしたタイミングを失しただけだと言い聞かせて、そのうち忘れる。そんなものだし、そんなふうだ。
いえずにいることなども多いのだろうけれど、そのことに気づくことはそんなに多くもない。けっこう、自分でも気付いていなかったりするものだ。そういう時、なんだかわからないまま、人は静かに苛立つ。
胸につかえ、苛立ちを覚えたところで、時間はかわりなく素早く立ち去る。
言いもせず覚えもしないデキゴトが過ぎ去って、それらがもし思い出されることが呼び起こすものは、それでも、そんなに多くはない。
多くはないのだけれど、少なくもない。
タバコに火をつけ、コーヒーを飲みながら思うのはつまり、そういうことが大半だったりする。