距離と無音

 携帯を買ったという知り合いとすこしだけ話をした。電車を降りて歩いているらしい背景の音が聞き取れた。少しばかりの笑い声、嬌声。少しだけ会っていなかっただけで会話は弾む。こんなことならずっと会わないほうがいいかもしれない、などと思ってみる。きっとそのとき話すためのパワーはとても高いレベルになることだろう。風船は空気を入れすぎると破裂する。かといって放置しておいてもしぼむ。

 会話を打ち切って接続を断つ。電話を切った後は少しだけ、ほんのすこしだけ、何かを忘れた気分になる。なにを忘れたのか、知らない。たぶんなにも無くしていないし、失くすようなものもそもそもないのだ。きっと、たぶん。