響きが過ぎる

 谷間中に充ちた声は風と同じで、聞き取ってもらうことは逆に難しくなるものです。あまりにも当たり前にそこにあるものだから、まさかそんなことは、と思わされてしまうのです。



 遠く、声を高く、掛けて見ても、届く時もあれば丸っきりの徒労に終わることも多いです。はるか遠い向こうには人もいるのですけれど、声は音に混ざり、耳は容易に聞き流すのです。



 空気の震えた痕跡は巡るうちに消えて、けれどその響きを忘れることは案外難しく、消えるからといって捨てることが簡単かというと、そういうものでもないのです。