遠くからの声

電話の向こうでは笑い声が響く。風の吹く交差点で耳を押し当てる。中身は聞かなくたって声を聞けば伝わる。心弾む一日の報告。

遠い街から届くレポートに耳を傾ける。ヘッドライトがきらめき、信号が明滅し、赤になる。道端に消え残った雪に目を落としながら声を聞く。

メールで写真を送ってくれるかい。待っているよ。

電話を切って息をつく。遠いその街にすこしだけ気持ちを置いて、でも居る場所は、きっとここ。

電話を握って立ったまま、消え損ねた声の記憶に耳を澄ます。もう聞こえない遠い声の、その場所の記憶へ。