溺れる

 もがくほどに遠ざかるという点で大部分の物事は海に似ている。溺れないように気をつけながら、浮かぶほかない(沈んでみたらまた全然違う世界が広がっていたりもする)。

 とても広いひろがりはどこまで続いているのかさえ判らず、手近な陸地にしがみついていれば楽だけれどそこから一歩離れた途端に右も左もわからない。かといっていずれ海面は上昇してくるのだから島から離れないわけにも行かないのだ。

 上手にもがけるようにはなったけれどまだ泳ぎ方は判らない。たぶん、泳ぐ事に疑問を覚えながら泳いでいるからだろう。そんなことをしていると足はつるし手はもつれる。

 ところで溺れることはとても心地の良い体験だ。